トビリシの安宿ロマンチックホステル



コーカサス旅行記

~3年半の月日~

ホステルジョージアには最近系列の安宿が出来たということはトラブゾンで聞いていた。特に新しい宿に移動するつもりはなかったが、ホステルジョージアに貼ってある「Free diner in Romantic hostel」という張り紙を見て、僕はフリーディナーという言葉に惹かれた。

僕がソフィアに「ホステルジョージアに止まっていてもロマンチックホステルでディナーを食べてもいいか?」と聞くと、彼女は笑顔で「ノープロブレムノープロブレム、ウェルカムウェルカム」と言った。

僕はロマンチックホステルに行ってみようと考えた。ソフィアにどうやっていけばいいかとたずねた。彼女は「私もこれからロマンチックホステルに行くから一緒にいく?」とたどたどしい英語で言った。

マルシュルートカと呼ばれるグルジアの乗り合いバスに乗り込み、僕は土地勘がまったくないまま、すべてを彼女に任せる形で向かった。

何がなんだかわからないまま、マルシュルートカを道路の真ん中で下りて、そのまま10分ほど歩き出した。ソフィアは「ここがロマンチックホステルよ」というようなことを言ったがどこにあるかまったくわからなかった。どうやらこのホステルは地下にあるようだった。看板も何もない、僕は密かに「一人だったら絶対にたどり着けないだろうな・・・」と思いながら地下に入りこんだ。

「Romantic hostel」と書かれた看板が見えた。その横にベルがあり、ソフィアはまた1日の仕事が始まるというような顔つきでベルを押した。するとめがねをかけた髪の長い、濃いひげを生やした日本人男性が現れた。所謂長期で旅行をしているバックパッカーの典型というような風貌の男性に中に連れて行かれ、数人の日本人長期旅行者に混じりながら挨拶と、バックパッカーのなかではもはや定型分があるのではないかと思えるほどあたりまえの「どのあたりをまわっているんですか?」「何ヶ月くらい旅行しているんですか?」というような会話をした。

めがねをかけた髪の長い、濃いひげを生やした人はだいぶ年上に見えた。彼は旅暦も長そうだというのは見た目だけでわかった。だが、それにしてもどこかで聞いたことのある声をしている。どこかであったことがあるのか?そんなはずはなかった。僕はこの旅でほとんど日本人旅行者と会ったことがない。あっても声を覚えるほど会話をしたことがあるのは5人に満たず、彼らとは今でも連絡を取っている。この人のような所謂本当の長期旅行者とは対して会話すらしていないはず、、

「何年くらい旅行しているんですか?」僕は彼にも聞いてみた。
「えーと、、、4年半くらいですかね。」と彼はそんなに明るくもなく、暗くもなく、ごく普通に淡々と答えた。
「どのあたりを?」
「中国からチベット、ネパール、インド、などですかね。」

・・4年半前に中国?チベット、ネパール、インド?ということは、、

「もしかして僕とあったことあります?」
「僕もそう思っていたんですよ。どこかで聞いたことある声なんですよね。」と彼は答えた。

「お名前伺っていいですか?」
「かめといいます」

・・・やっぱりだ。かめさんだ。

「かめさんじゃないっすか!ネパールで一緒に沈没しましたよね!?」僕は急に彼に親近感が沸き、テンションがあがった。

かめさんとは、3年半前ネパールのカトマンズで一緒の宿だった。当時インドでボランティアをしながら1年間の長期旅行をしていたとき、カトマンズのホーリーランドという安宿で、僕はこの人と一緒に沈没をした。何もせず、ただダラダラと過ごして一日が終わるというのを1ヶ月ほど繰り返していた。

でも、そのときいた4人とはずっと無駄にダラダラと話をしていたことだけは覚えていた。あのころは個人でパソコンを持っている人は少なく、夜にはネットカフェはしまるため、夜は何もやることがないまま宿でダラダラする以外にやることはなかった。一緒にいる日本人と話すことくらいしかやることもないため、僕はあの時、いろんな人と知り合い、いろんなことを語ったことを思い出した。

あれはインド・ネパールの長期旅行の終わりくらいだった。あれから僕は日本に帰国し、結局1年11ヶ月働いて、今1年8ヶ月間長期旅行を続けている。この間、この人はずっと旅を続けていたことになる。

僕はこの偶然の再開の驚きと、この人の旅の意味不明な長さへの好奇心とで何がなんだかわからずうれしくなった。そして昔昔、まだ好奇心にあふれていた若い自分を少しだけ思い出した。

その日の夜、僕はこの長い長い長期旅行者と一緒にロマンチックホステルで出される夕食とフリーワインを飲みながら話し込んだ。僕は完全に酔っ払い、ネパールにいたころを思い出したように、またこの旅の中で日本人に対して持っていたどこか冷めていた感覚を解き放つように、空気をまったく読まずにベラベラベラベラと勢いよくマシンガントークを繰り出した。

結局僕は酔っ払いすぎてホステルジョージアに帰れなくなり、ロマンチックホステルに泊まった。ソフィアもかめさんも苦笑いをしていたが、もはや空気を読むほどの力は残されていなかった。

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