中米旅行記/エルサルバドルのメタパン



〜ピュアな人々〜

ブエノスディアス!

ソフィアは毎日僕を起こしにやってくる。僕は眠い目をこすりながら家族と一緒に朝食をとった。いつの間にか僕はベジを辞めた。こんなにお世話になっている家族に「自分はベジタリアンだから肉は食べない」というのが嫌だった。そしてそれ以上に家族と同じものを食べたいという気持ちが強かった。

彼女らは朝6時ごろに起き、夜8時には寝てしまう。一日のサイクルが僕と正反対といえるほど朝早く起きて、夜早く眠る。僕は旅中、大体夜1時ごろに寝て、早くても朝10時ごろに起きていたためこのサイクルにあわせるのが大変だと思ったが、すぐに慣れた。有意義に一日を使っているためか、一日が長く感じた。

ラファエラは自分の彼氏との関係でいつのまにか僕とあまり話をしなくなったが、その分、ソフィアとは仲がよくなった。マルビンは近所に住んでいて、毎日僕に会いに来てくれた。

メタパンは田舎町。特別やることはない。時間の流れがゆったりしている。どこかキューバのような感じがする。キューバもエルサルバドルも田舎は同じ、いや、田舎は世界中どこも同じかもしれない。特にやることもなく、何もせずにゆったりゆったりと過ごす。

特に何をしたわけでもなく、僕は彼らと一緒に、街を散歩して、教会に行って、モンテクリストという山をジープで登って、ネットカフェで日本のアニメを見て、話をして過ごした。ここには忙しいという言葉を一切忘れさせてくれる空間が存在していた。

メタパン

メタパン

マルビンもソフィアも本当に本当に純粋だった。日本が大好きな彼らは日本のことをよく質問してくれた。そのときの彼らの目の輝きは僕にとって新鮮で、そのピュアさに心を打たれた。彼らはいつも僕に気を使ってくれ、いつも静かに笑っていた。

お母さんは僕のことを気にかけてくれ、お父さんは目が見えないにもかかわらず毎日僕に明るく話しかけてくれた。お父さんは毎日毎日ハンモックに揺られながら一日を過ごしているようだった。お母さんは僕の破れたかばんをミシンで縫ってくれた。ここまでお世話になっておきながらさらにこんなことをやってもらっている自分を恥ずかしく思った。

「メタパンは田舎だから何もないよ。つまらないでしょ?」と彼らは言った。僕はこういうつまらなさがたまらなく好きで、こういう生活をしたいと言った。彼らは20年以上もずっとこういう生活をしているせいか、不思議そうな顔をしてこちらを見た。

小さい街で自然に囲まれて毎日毎日友達や家族が寄り添って何の不安もなく普通に暮らすこと。経済的不安を抱えながら世界を旅している僕とは正反対の人生。僕はこんな人生に憧れている。彼らは僕の人生に憧れている。

メキシコから色んな現地人の家に泊まらせてもらって、南に行けば行くほどインフラが整わなくなっていくということが段々と分かってきた。感覚的にだがメキシコ・中米においてアメリカ合衆国が近くなればなるほど経済的に発展し、アメリカ合衆国から遠ざかれば遠ざかるほど経済的に発展しなくなるのだろうと思う。

ここは日本と比べてインフラは全く整っていなかった。トイレの水が流れない時間帯があり、瓶に溜めてある水をバケツに移して体と頭を洗う。エアコンなどはなく古い扇風機があるだけ。

日本と比べたら不便さを感じるかもしれない。が、それが何だというのだろう??このゆったりした空間で家にあるハンモックに揺られながら思った。



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あるときソフィアは「犬がいる。かわいい」「見て見て!子供が木登りしてる!」と言った。僕は一つのことに純粋な感情を持つことをずっと忘れている。常に何かを複雑に複雑に考えていて、単純に、純粋に物事を見れなくなっている。

僕はこの純粋さに胸を打たれた。子供の頃に遊んでいた時のことを思い出して切なくなる感情に似ている。上手く表現できないが郷愁の念という言葉が近いかもしれない。この感情についてもまた考えている。

僕は中米は危険だと思っていたと言った。彼らは「サンサルバドルやサンタアナは危ないかもしれないけどここは大丈夫、静かだよ」と言った。僕は心の底から反省し、中米のエルサルバドルという国に感謝した。

この国には、少なくともメタパンという田舎町には、危険なことなど何もない。ただ、純粋な人々と豊かな自然と小さい街があるだけだった。

最後の日に僕はソフィアの家からマルビンの家に移った。もっとここにいたいと思ったが、チケットがあるためコスタリカに行かなければならなかった。彼らと別れるのは寂しかった。

眠ろうと思ったときに蚊が出てきた。プーンという音が部屋中に響く。全身がかゆい。マルビンの家は扇風機がほとんど効かない状態だったため蚊を避けることができず眠れなくなった。眠れそうになったときには鶏が大声で鳴き始めさらに眠れなくなった。

翌日マルビンにそのことを笑いながら言うと彼は「ごめんなさい」と言った。もうその一言だけでよかった。むしろこんな生活をさせてくれてありがとうと思った。こんな好青年は見たことがない。

お母さんとお父さんとラファエラとハグをして、家を出た。お母さんは「また帰っておいで!」と言ってくれた。優しさ、純粋さに打たれすぎて胸が痛い。でもこんな胸の痛みなら何回でも経験したい。

マルビンとソフィアはバス停まで見送りに来てくれた。僕はマルビンと固い握手を交わし、ソフィアと固いハグをしながらサンサルバドルに戻った。

ピュアな人々を目の当たりにして感謝の気持ちと切なさで胸が一杯になった。

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