ドイツ治験とシェンゲン協定のEU圏オーバーステイ





~シェンゲン協定~

ほとんど眠れていないせいか、飛行機の中では泥のように眠っていた。トランジットのため僕はベルリンに一度降りなければならなかった。ポーランドもシェンゲン協定に加盟しているため、おなじシェンゲン協定加盟国であるドイツに入国しても、入国審査もスタンプもない。

僕は治験をするためにドイツのデュッセルドルフに向かっていた。ロンドンで治験が駄目になった僕は新たにドイツの治験に応募していた。この治験ができれば旅をもうちょっと長く続けることが出来る。だが、体が弱い僕は今回も治験ができるかはわからなかった。数日間続く喘息はそれをさらに不安にさせた。

ベルリンからデュッセルドルフ行きのフライトまで4時間ほど時間があった。この時に僕は重大なことに気がついた。

治験をするとEU圏オーバステイになってしまう。

EUはシェンゲン協定という条約を各国が結んでおり、この協定の加盟国同士の行き来は基本的に入国審査がない。その代わりにEU外の国民は180日間のうち90日間までの滞在しか許されておらず、90日を過ぎて出国すると入国した日から180日間経たなければ再入国が出来ない。

シェンゲン協定加盟国は西ヨーロッパだけではなくチェコ・ポーランド・スロバキア・ハンガリーなども加盟していてほぼすべてのヨーロッパは90日までしか滞在できない。

ただしEU=シェンゲン協定加盟国というわけではなく、スイスはEU加盟国ではないがシェンゲン協定加盟国であり、イギリスとアイルランドはEU加盟国だがシェンゲン協定には加盟していない。つまりスイスの滞在は90日にカウントされ、イギリス・アイルランドにいた日数は90日にカウントされない。

さらに運のいいことに僕はドイツでトランジットをしていたため90日で別の国に出国してから10日ほどで「入国してから180日」という条件をクリアして再入国も可能になる。

エクセルでこれまでの日数と治験の予定を計算してみた。すると3日間のオーバーステイになるということが分かった。しかもその治験の終わりの日に出国したとしても治験の事後検診が2週間後にあるため、再度EUに入国しなければならないというかなり厳しい状況になっていた。

治験をやめるわけにはいかなかった。そろそろ本気でお金がなくなってきている今、旅を続けるためには治験は絶対に必要だった。これで治験ができなければ、、、、、、、帰国日を決めなければならない。

色々と考えた結果4つほど案が浮かんだ。

1・日数を調整するために治験の実施期間で空いている日にEU外に飛ぶ
2・ドイツのワーキングホリデービザを取る
3・日本大使館に事情を話す
4・パスポートをわざと無くして再申請をする。

2,4は出来ればやりたくなかった。面倒なことになることは簡単に想像できた。3も在デュッセルドルフ日本大使館に確認したが結局、移民局に行かなければならず再入国はかなり厳しい状況になる・・・一番現実的な方法は1しかない。だが、どこの国に何日に出国すればいいのか?チケット代はいくらくらいになるのか?調べること、計算しなければならないことは山ほどあった。



結局ベルリンの空港で眠ることも休むこともなくずっとネットで情報を集め、どうするかを考えていた。

気がついたらフライトの時間は迫り、デュッセルドルフに向かった。ヨーロッパに来てから何回も飛行機に乗っているせいか、飛行機が出発することに対してのわくわく感などは一切なくなり、飛行機に乗っているときは眠るとき、、という自分の中での一つのルールが出来上がっていた。

デュッセルドルフにつき、僕は病院が用意してくれたホテルに泊まり疲れを癒した。病院が取ってくれたホテルは今までとまったことがないようなヨーロッパの趣のあるホテルだった。

次の日に病院に向かった。朝早くおきてトラムに乗り、以前にメールでもらったファイルの通りに病院に向かった。だが、ファイルの説明が分かりづらく僕は結局遅刻をした。

病院で日本人の担当とドイツ人の医師から説明を受けた。治験というものはこういうものであるということ、今回の薬はこういうものであるということ、今回の入院期間はこれくらいであるということ、、、、、もう事前に知っていることばかりであったのであまりちゃんと聞いてはいなかった。ただ、オーバーステイで治験がうけれなくなることだけは絶対に避けて欲しいとかなり強い調子で言われた。

絶対にオーバーステイにならないようにしなければならない。

病院からホテルに帰り、僕は作戦を練り始めた。

ネットにはオーストリアだけは180日間の滞在が認められているという情報が載っていた。もしこれが本当なら、EU圏から90日以内にオーストリア入国した偽造チケットを見せて証明し、オーストリアから出すれば、問題はないだろうと思ったが、あまりに制度が複雑すぎて意味がよくわからなくなっていた。それに、、、もしこれでお咎めなしでEUから出たとしても、事後検診を受けるためには必ずドイツに再入国しなければならない。この再入国が出来るようになるかは微妙な状態になる。

事前検診から入院までの間、5日間だけ日にちが空く。事前検診の日に出国して入院の当日に戻ってくればなんとかなる。だが、もしこれで出国して検診の結果治験が出来ないということになればこのチケットは無駄になる。病院の担当の日本人に確認し、事前検診の次の日に治験を受けれるかどうかの結果が出るということがわかった。その日から入院の日までシェンゲン協定の国から出て、なおかつ治験の最後の日にドイツからシェンゲン協定外に出れば、、、、、、ぎりぎり90日の滞在になる。

次はどこに抜けるかを調べた。もう日にちは決まっている。

色々と調べたが事前検診の次の日に出国で入院の日に戻ってくる便はイギリスしかなかった。僕はチケットが出ているスカイスキャナーのサイトのURLをコピーしてメモ帳に貼り付けた。あとは事前検診の結果、治験が出来るのならばその日にチケットを取ってイギリスに、治験が出来ないのならばチケットを買わずにそのままEU圏内の旅行を続ける。もしチケットが売り切れているのなら治験をやってからオーストリア出国にかける。

これですべてが整った。あとは年が明けて病院で検査を受けてその結果を待つのみ。

2012年の仕事はすべて終わった。後はゆっくりと休み一人で年末年始を迎えるだけだった。

数え切れないほどの外国人と話し、数え切れないほどのプロブレムに見舞われ、数え切れないほどの日数を無駄にダラダラと過ごした2012年もあと数日で終わろうとしていた。

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