メキシコ旅行記



〜2012〜

「明けましておめでとう」・・・

僕はテンションの低い枯れた声でめぐに言った。
ブエノスディアス(おはよう)という時間ではなく、ブエノスタルデス(こんにちは)と宿のスタッフが言っているのを聞いて、起きた時間は12時を周っているのだと気づいた。

新年一番最初にしたことは、あの家族とこれからどうやって付き合っていくかを考えることだった。少しだけ寝たおかげで、冷静に考えることができた。彼らには悪意はない。マリファナを吸うこともこの国では普通。彼らなりの僕らへの思いやりなのかもしれない。そう考えると特に怖いと言う感情はなくなっていた。

問題は、夜中に帰してくれないので自由な時間がなくなってしまうということだけだった。彼らのフェイスタでは何故か帰りづらい雰囲気が生まれてしまう。「僕はホームステイをしたいわけでもない。普通のホームステイや留学は僕には合わない。僕はあくまでも自由な旅人なのだ。」今までほとんど旅行をしていないのにも関わらず、自分の心の中で強がってみた。

・・とりあえず、一旦引こう。
考えた結論はこれだった。このまま付き合えば恐らく彼らとは仲が悪くなるだろう。アリスにスペイン語を教えてもらう計画は一旦白紙にする。インディラに週2回来てもらい、スペイン語のレッスンをしてもらう・・そう思いながら彼ら全員をフェイスブックのチャットだけブロックした。これで連絡は取れない。もし、宿に電話が着たら、、、、その時に考えよう。そこまで怖がる必要はない。この人たちは悪い人たちではないのだ。

街を出ることも考えたが、それは何故かしたくなかった。理由は特にない。僕はこの街が好きで、そしてグルグルと色んなところを旅行するのがそんなに好きではないだけだった。「僕は普通の旅行者とは違う。」とまた心の中で強がった。普通と違うことがしたいという天邪鬼的な発想は僕の中から離れない。これがいいことなのかも悪いことなのかもよくわからないが、とりあえずやりたいようにやるということだけは忘れたくなかった。

めぐともずっとそういう話をしていた。自分たちは世界一周にこだわっていない。世界一周というネームバリューにどこか違和感を持ち、そしてそれを自慢げに話す日本人旅行者に対してネガティブな感情を持っていた。

日本人宿に泊まり、日本人同士で絡み、日本語だけを話す。安さだけを追求してみんなと同じように行動し、どこの観光地が良かったとかどこの国の人間は最悪だとか決まりきったような話をし続ける。そして旅をしている時間が長くなると日本人宿に長期滞在して日本語の本や漫画を読み、インターネットだけをして過ごす。所謂沈没である。僕は昔こういうことをしていたしこういうことが悪いことだとは思わない。

でも、なぜか日本にいる時からいつの間にかこういう旅をすることが嫌になっていた。めぐも同じ気持ちだった。彼女は中国から東南アジア・インドルートを通らず、中央アジア・イランルートを通ってきてヨーロッパをチャリで周っていた。彼女とはハバナとケレタロをあわせると10日程度は一緒にいる。彼女の話は聞いていて楽しく、なんとなく自分と似ている印象を受けた。

ホステルブッカーズとカウチサーフィンを使ってなるべく日本人宿に行かない。旅行者との交流と同じように現地人との交流を大切にする。バックパッカーが避けるような面白くない(と言われている)国へも行く。でも本当に危ないところへは行かない。そして時には日本人に行き日本人と交流する。この考え方は一致していた。

僕はすべての旅人を否定しない。何かしらの思いがあって日本での安定した生活を捨てて世界中を周る人たち、その中で色んなものを見て色んなことをやって色んなことを考える。それが如何に素晴らしいことかということを充分に知っている。自分は他の旅人と違うと思い込んだところで結局は同じなのだ。僕はただの旅行者なのだ。

ケレタロの街並み

めぐとケレタロの夜景を見ながらこんな話をずっとしていた。ロマンチックな夜景がここまで似合わない人たちも珍しい。そして数日後に彼女はメキシコシティに向かった。次にいつどこで会うかも分からない。会わないかもしれない。たった数ヶ月の間に沢山の人と出会いと別れの繰り返しを続けてきた。旅をする上では避けて通れない。

僕はスペイン語の勉強を続けていく。そして学校へはなるべく行かない。ここでお金を使って学校に通いながら普通に勉強するよりも旅人と言うカテゴリーの中で、現地人に囲まれながら独学と経験の中でスペイン語を学んでいく。それが自分に一番似合っているということがなんとなく分かってきた。

ケレタロで学校へは行かない。インディラに教えてもらいながら独学する。それが効率的だとは思わないし、現地に来て独学というのは意味があるのかという疑問もあるが、これがベストであるとなんとなく思えてきた。

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