メキシコ旅行記



〜思春期の少女の悩み〜

本人の許可を得て書いてます。彼女のプライバシーのため詳しいことは書けません。

年末の悪夢のようなワンダーランド以来、僕はアリスと距離を置いていた。

フェイスブックのチャットをブロックし、こちらから一切連絡しないようにしていた。彼女にスペイン語の先生になってもらうということをあきらめたことで独学をしていたが、インターネットに邪魔されるという自分の意志の弱さを露呈する日々が続いた。

それでも少しでもいいから勉強しよういう意思だけは持っていた、そして一日1時間、多くても2時間くらいだったがスペイン語を母語とする友達のフェイスブックのシェアリンクやコメントを辞書を引いて調べてノートに写すという作業をやった。



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誕生日を終え、考えを変えた。誕生日と言うイベントがなければフィエスタは行われないと考え、普通に彼女の家に遊びに行く分には特に問題がないという結論になった。

チャットのブロックをとき、左下にサムネイルが表示された。表示された彼女の写真を見て、懐かしさを覚えた。

どちらからということもなく、僕らはチャットを始めた。僕は当然のようにブロックしていたことは黙っていた。彼女は傷つきやすい。無駄に彼女を傷つけるわけにはいかない。仮にも旅行者に対して家に招待し、旅行だけでは絶対に見ることができないメキシコの家庭に招待してくれ、クリスマス、年末年始を家族の中にいれてくれた人物なのである。そのことには本当に感謝している。ただ、文化、習慣が違うだけなのだと心の中で思った。

「Hola」「como estas?」・・・・英語で言うと「Hello」「How are you?」の挨拶である。スペイン語の会話はリアルであれ、チャットであれ常にこのくだりから始まる。

僕はEstoy bien(I’m fine)と応え、y tu?(and you?)と聞いた。中学1年生で習う挨拶のスペイン語版である。すると彼女はestoy cansada(I’m tired)と応えた。何故かと聞いても彼女は大丈夫。気にしないでと言った。彼女は僕に気を使わせないようにしてくれていたが、逆に僕は彼女を心配した。

それでも、彼女はやっぱり誰かに話を聞いて欲しいようだった。心配しているということを伝えると彼女は自分の話をしはじめた。

彼女には5ヶ月間付き合っている彼氏がいた。インターネットで見つけた彼氏。彼氏はアメリカに住んでいてまだ一度も会ったことがない。ただ、チャットで会話をする彼氏・・・ それは「彼氏」なのだろうか?

彼女の言っていることは完全に僕の常識を超えていた。やはり彼女の頭の中はワンダーランドなのだろうか?と驚いたが、インターネットがこれだけ発達している世の中でこういう人たちが現れるのも不思議ではないとすぐに思った。彼氏とこれからどうやって一緒に暮らしていくのか?結婚する気はあるのか?という疑問はあったが当然のように黙っていた。

彼女は数日前に自分の両親・彼の両親と共に彼とリアルで会った。それが初対面であった。たった5ヶ月、そしてインターネット上で会話していた人とリアルに会うというだけでなぜ急にその展開になるのか?という疑問があらたに浮かんだがそれも黙っていた。

彼女は話を続けた。

彼は彼女に対してどういう思いを持っていたのかはよくわからなかったが、彼と会った時の印象が良くないようだった。その印象は僕が話を聞いている限りでも最悪の部類のものだった。彼女は完全に彼に信頼をなくし、別れる決意をした。

彼女は17歳。思春期の少女の初恋だった。彼女は傷つきやすい、おそらく僕には想像もできないくらい傷ついているだろう。家族以外にほとんど心を開かない彼女の気持ちは僕なりによくわかっていた。世の中には「繊細な人間」いるのだ。なのに何故か僕には心を開いていた。僕もインターネットで知り合った人間だからだろうか?

彼女は自分に自信を持てない人間だった。彼女は普通に綺麗な顔立ちをしており、性格もいい。普通に男の子にモテる要素は沢山あるのにも関わらず自分自身を嫌っていた。自分が太っていて肌の色が白くないから嫌だといった。彼女はどう見ても太っていない。そして白人=綺麗では絶対にない。

もし、彼女が25〜30歳くらいなら所謂メンヘラであったが、まだ若い。ただの思春期であると思った。僕はなぜか若い頃から女性からこういう部類の人たちにネガティブな相談を受けることがよくあるがなぜなのかは未だにわからない。

僕は彼女に自信を持って、リアルの彼氏を作って欲しいと思った。これだけ綺麗な顔立ちをしていてこれだけいい性格なのだからそんなのはいくらでもできる。が、何を言っても「Gracias(Thank you)」というだけで彼女は常に自信を持てずにいた。



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数日後、元彼はアリスにメンヘラの男がよく言うようなメッセージを送った。アリスは返信をしたようだが、その後の応答がない。話を聞くと元彼は・・メンヘラだった。成年した男性のメンヘラほどたちの悪い人はいない。

もう、自分にはできることはないという判断をして、元彼の話題を出すは辞めた。

会話の中で彼女は僕のことを「あなたは私のHermano(Brother)みたいだね」と言った。僕は笑って「Gracias」とだけ答えた。

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