〜いい感じのクレイジー〜ホワキナの家に行くと日本人が二人いた。 日本人のバックパッカーだった。名前は伊藤さんとトミさんといった。二人とも僕よりもキューバに長く滞在していて、安いご飯や観光名所などの情報を教えてくれた。 伊藤さんはホワキナの家で蚊にさされ、デング熱になりながらジャマイカや他のカリブの島を旅していた。「ずっとハバナにいるとデングになりますよ」と冗談交じりに言っていた。トミさんは僕よりも若かったが、3ヶ月以上キューバに滞在していて音楽をならっていた。 この日から、３人で行動することが多くなった。昼は一人で観光したり、3人でトミさんが好きな音楽のライブを見に行ったりした。キューバの音楽は聞いてて面白かった。ボサノバのような、アフリカのような、ラテンのような、分からないけどエキゾチックさを感じた。何回も旅をして、いろんな国に行っているせいか、僕は地球の歩き方に書いてある観光地に魅力を感じなくなっていた。そんな時に旅人の情報は役に立つ。普通に旅行をしていれば絶対にいけないような所をありえないような安い値段で行くことができるからだ。 キューバはメキシコ以上に物価が安かった。カーサの料金はメキシコのドミトリーと同じくらいだが、街にはピザ、ハンバーガー、カヒータと呼ばれるご飯と肉のお弁当が売っていて、どれをお腹一杯食べても80円もしない。レフレスコと呼ばれる炭酸ジュースも１０円もしない。すべて人民ペソで支払いが可能だった。逆にＣＵＣを使う機会の方が少なくなっていた。 だが、メキシコと同じようにこの国には野菜がなかった。必ず何を食べても肉と炭水化物になる。肉は確かに美味しいがずっと食べていると体の調子が悪くなる。何とかビタミンを取りたいが外食で野菜を取るのは難しい。ハバナには中華街もあり、ここなら野菜も取れるだろうが、高くなってしまう。レフレスコとオレンジジュースでビタミンを取るしかなかった。 夜は3人で語ることが多かった。普通に日本で暮らしてれば絶対に話すことはなかった天邪鬼の3人組の語り合いは毎日毎日真夜中まで続いた。旅の情報、当たり前だがメキシコやキューバにいると中南米の情報が出回る。中南米に来たことがなかった僕にとってすべての情報は新鮮であり、リアルであった。今まで色んな国を肌で感じ、知識を得てきたが、まだ知らない新大陸があるということを改めて感じていた。 伊藤さんは２０年ほど前に、アフリカを中心に自転車で5年旅をしていた。その時に、アメーバ赤痢になった話、南アフリカで１年間働いていた話、、、、自転車での移動、、、話は面白かった。今回の旅もアラスカやカナダをバイクでまわっているが途中でバイクが壊れたので急遽予定を変更してカリブの島全部まわるということだった。彼は冷静に考えれば信じられないような話を当たり前のように笑いながら話した。この人のやっていることは僕にとって旅ではなく冒険であった。 これからも全部で３０近くあるカリブの島をすべて周ると言う。「カリブの国なんてつまんないし、高いし、いいこと一つもないんだけどね。」と彼は言った。僕にはそれでも行く理由がなんとなくが分かった。 トミさんも同じだった。彼はなぜかキューバにずっといる。普通に国を周るはずがなぜかキューバにとどまり音楽を習っている。そしてなぜかトリニダードトバゴというマイナーな国のビザを取るために、ネット回線が異常に遅く破格なのにもかかわらず、ネットでベネズエラのカラカスからポートオブスペイン行きの1ヶ月のＦＩＸチケットを取っていた。千葉県ほどの大きさしかない国に1ヶ月もいる。彼は自分でも意味がわからなさそうにしていたがなんとなく僕には意味が分かった。こういう訳のわからないことこそが面白いということを僕は今までの人生経験上、なんとなく理解していた。 この二人は僕にとっていい感じにクレイジーだった。 ------ 「スペイン語勉強するならハバナ大学行ってみたらどうですか？」
ある程度観光が終わってすることもなくなってきた僕にとって、この情報は朗報であった。というよりも、僕はこの旅においてすべてに流されようとしていた。「自分の意思なし。主な目的なし。期間も定めず、行く国も決めない。あるとすればお金を節約することだけ。面白そうなことは全部やる。」それがこの旅の一つのテーマでもあった。 ただ、毎日毎日夜遅くまで語っているせいかなかなか早く起きれなかった。大学の手続きを済ませるためには、早く起きなければならない。なのに眠ってしまう。そして今は雨季なのかわからないが、午後になると雨が降り出す日が続いた。大学は遠い。雨が降り出すとなかなかいけない。そして雨が降り出すと湿気がひどくなる。湿気がひどくなると蚊が増える。伊藤さんをデング熱にした蚊である。 気づいたら金曜日に手続きができなかった。土日は大学は休みである。なんて無駄なことをやっているのだろうと二人に笑われていた。僕も笑っていた。 ＴＯＰ ＮＥＸＴ |