ペルーの強盗
 



〜リマに戻る〜

眠れない状態で朝を迎えた。

まずはここから脱出してリマに帰らなければならない。リマに行かなければ大使館がない。大使館に行かなければパスポートも再発行できない。

だが、ここからリマまでバスで20時間ほどある。無一文の状態でどうやって帰るか?ヒッチハイクをするか、バスターミナルで誰かにお金を借りるか。ずっとそれを考えていた。

不幸なことにその日は土曜日だった。土曜日に大使館が開いているのか?不安だったが、ネットで調べて大使館に電話をかけた。警察はいやいやながら僕に電話を貸してくれた。時々ふざけて「ずっとトゥンベスにいるしかないな」というようなことも言われた。

僕はイライラしながらもこの腐敗した警察から脱出する方法を考えた。もう一泊するのは嫌だった。署長がいるときはいい人ぶるのだが、署長がいなくなると横柄な態度に変わる。賄賂でも渡せば働くのだろうが、いかんせん一円も持っていない。この人たちはまさにラテンアメリカの腐敗した警察たちだった。だが、署長の命令だから仕方がないのか、ご飯だけは食べさせてくれた。それだけでも感謝しなければならなかった。

日本大使館に電話したが音声ガイダンスだけだった。僕は音声ガイダンスで案内された緊急番号に電話をした。その緊急連絡先から領事部に連絡が行き、領事部から折り返しの連絡が行くといわれ、僕はネットをしながら待った。ネット以外にやることはない。外にも出れない、軟禁状態だった。

数十分で領事部から連絡が来た。大使館員の人に強盗に襲われた話を事細かに話し、当日の夜行バスを大使館のお金でとってくれることになった。大使館の人はお金は後で返せば言いと言ってくれた。日本大使館の邦人保護がこんなにしっかりしていると思っていなかった。日本大使館に感謝し、腐敗した警察に盗難証明書をもらった後、バスで20時間かけてリマに帰った。



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午後3時にバスに乗り、ついたのは次の日の午後12時くらいだった。バスターミナルに大使館員は着てくれ、僕は無事に邦人として保護をされた。

「運がよかったですね」大使館員は言った。そうか、僕は確かに暴行を受けていない。ただ、荷物を取られただけなのだ。僕はパスポートとクレジットカードを再発行すればまだ旅はできる可能性がある。それだけでも運がよかった。そう思えると、前日から徐々にこみ上げてきた絶望感は徐々に消えていった。

大使館員は僕に100ドルを貸してくれ、当山ペンションという僕にとっては一泊の値段が破格の日本人宿に連れて行ってくれた。高いとか安いとか言っている場合ではなかった。まずは安全なところに非難して、すべてを元に戻さなければならない。

やるべきことは3つあった。パスポートの再発行、クレジットカードの再発行+日本から在ペルー日本大使館への郵送。日本からの送金。

パスポートを再発行するためには戸籍謄本を日本から送ってもらう必要があった。だが、郵送だと時間がかかるが、FAXで送ってもらい、後日郵送すれば翌日発行してもらえるということだった。

だがパスポートの発行には12000円分のソルが必要だった。

・・僕は100ドルしかもっていなかった。しかもそれは借金。幸いにもウエスタンユニオンというツールを使えば口座を持っていなくても日本からの送金を受け取れるようだった。即刻家族に連絡し、500ドルを入金してもらい、ネットで調べたリマの住所を頼りにウエスタンユニオンのリマ支店に向かった。タクシーに乗るのは怖かった。トラウマになっていた。

だが、その住所ではパスポートがないと現金を受け取れなかった。そこの人は別の支店へ行けといい、僕はさらにタクシーで別の支店へ行き、事情を説明した。だがここも同じだった。パスポートがなければ現金はおろせない。

パスポートがなければ現金はおろせない。現金がなければパスポートはもらえない。完全にコントのような状況だった。

だが、相手の気持ちもよくわかった。確かに僕は不正をしているかもしれない。僕は今、日本人であることすら証明できない。お金も持っていない。お金もなく、身分も証明できない人間に対して反応が冷たくなり、疑うというのはどこの国も同じだった。

だが、そんなことを思っている余裕はなかった。ここで現金をもらえなければ本気で死ぬ。文字通り死ぬ気になった。僕は自分の持てるすべての力を使い、ウエスタンユニオンの店員に事情を説明した。強盗に会って一円も持っていないこと、パスポートはおろかすべての身分証明書を盗まれたこと。警察の盗難証明書を見せながら何度も何度も説明した。

結果、パスポートのコピーを持ってくれば現金を下ろせるということになった。翌日、僕は大使館に行き、この事情を説明した。大使館の人は困りながらも僕にコピーをくれた。ウエスタンユニオンにそのままタクシーで行き、現金をおろした。彼はまだ僕を疑っているようだったが、僕は同じように何度も何度も冷静に事情を説明した。

そのまま現金を持ってパスポートを受領した。これで当座の現金、パスポートはそろった。あとは、クレジットカード・・・・

幸いにも、僕はアルゼンチンでカードを紛失して再発行したものがあり、それを家族に大使館宛に郵送してもらっていた。だが、家族はそのカードの機能も止めていた。家族はあまり僕の事情をわかってくれていないようだった。だが、協力してもらっているので文句は言えない。むしろ、今この状態で旅を続行しようとしているほうが不思議なことだった。

再発行には10日以上かかる。それを郵送してもらうとさらに1週間かかる。僕はブラジルからドイツに行くチケットを持っている。あと1ヶ月もない。どうするべきか????

とりあえずすべてのカードを再発行して、実家においておき、現金で動くことにした。怖いが、それしかない。

次は、、、、ブラジルビザだ。

着々と復旧は進んでいった。絶望に陥ってるけど、本気でぼろぼろだけど、若干トラウマあるけど、旅続けるの怖いけど、でも、泥棒は僕の大切なものは盗めていなかった。物理的に現金も40ドルしか盗めていない、パソコンもカメラも古くて使い物にならない。カードはすべて止めた。そして何よりも、僕の本当に大切なものは絶対に誰にもどんな状態になっても盗めない。

旅はどこまでできるかわからない。だが、まだ可能性はある。可能性があればやろう。やってないのにわかるわけない。

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