アルゼンチンホームステイ



〜生活〜

アルゼンチン人金髪女性の家でのヒモ生活が始まった。

ヒモ生活で何もしないわけにはいかない。とりあえず家事の手伝いをすることに決めた。彼女は大学の講師なので、仕事に行く時間は曜日ごとに違っていた。僕はまず彼女の曜日ごとのスケジュールを聞き、家にいる時間帯を把握した。とりあえず帰ってきたらお茶をだすだけでもやろうと思い、ガスコンロのつけ方を教えてもらった。日本のものとは違って、ガスの栓をあけながらチャッカマンで火をつけるのでやり方がわからないと危ないものだった。

そして彼女が僕に食事を作ってくれる代わりに、僕が終わった後の洗物をやるということを決めた。本来なら無料で住まわせてもらっている僕が食事を作るべきなのだろうが僕は食事を作るのが苦手だった。お茶を入れる、洗物をする、そしてゴミ捨てをする。アルゼンチンまで来て家事をするとは日本にいるときは想像も出来なかった。

とりあえず、ここでステイする中で何かしらやりたいと思った。何かしらやるといっても特にやることはない。バイトが出来そうな環境にもないし、いまさら語学学校に行く気にもなれない。

メキシコでやったのと同じように生活をしながらスペイン語を勉強しようと思った。だが、明らかに旅のはじめのころよりもモチベーションは下がっていた。

僕はこれまで多くのラテンアメリカを歩き回っているうちに、自分なりに会話ができるようになっていたが、アルゼンチンのスペイン語は単語、話し方、表現のニュアンスにおいてメキシコのスペイン語や所謂スペインの標準スペイン語とはまったく違っていた。
メキシコで「ジャ・ジュ・ジョ」と発音するものをアルゼンチンでは「シャ・シュ・ショ」と発音する。そして2人称の主語はスペインでもメキシコでもボリビアでも「tu」であるがアルゼンチンを代表する一部の地域では「vos」という今までほとんど聞いたことないものであり、その活用も違う。なのですべての文章の発音が微妙に違ってくる。単語もアルゼンチン特有の単語が多い。

いまさら、この独特なスペイン語を学ぶ気にはなれなかった。

でも、ラウラさんはいい人なので、言葉がなくても何となくコミュニケーションが取れた。
単語が分からなくてもボディーランゲッジで伝え、彼女も簡単な単語で話してくれる。まったく問題なく意思疎通ができる。この状態ではもはやこれ以上のスペイン語を必要としない。これがさらにスペイン語の好奇心を薄れさせた。

メキシコでの経験を活かし、逆に考え方を変えた。とりあえず出来る限り話をしようと思った。スペイン語を勉強するのではなく、スペイン語を使って自分が伝えたいことを伝えて彼女が伝えたいことを理解しようと思った。

彼女は哲学者だけあって知的好奇心が強く、日本社会に興味を持っていた。僕は自分のもてるすべての知識を使って彼女と話をして質問した。ヨーロッパやアメリカとは違う南米の大国での社会的な話は違った意味で楽しかった。これまであってきた人たちは自分と同じくらいか年下だったため、あまりこういう話をすることはなかった。

彼女の考え方は僕に似ていた。色んなことを考える、そして物欲がない、テンションは高いけれど落ち着いていて、どこか冷静に物事を見ている。考え方というものは国民性によって違う部分もあるけれど、結局は同じなのかもしれない。 国民性というものはあるようでない。そしてないようである。結局は人。デペンデ・デ・ペルソナ。国によってその人を判断するのではなく個人として人をみるように、と旅の中で物の見方もちょっと変わった。

彼女はジブリが好きで、ジブリ作品のDVDを持っていた。僕らは一緒に千と千尋の神隠しを見た。僕はこれまでの旅の中で、現地人と一緒にトトロ、ラピュタ、紅の豚、を見てきて、これで4作目である。そしてちょうどYoutubeに古畑任三朗のスペイン語字幕があったので、これも一緒に見た。ドラマを見ながら解説したり、感想を聞いたりした。

彼女はあまりにもいい人であるため段々と緊張は解けてきていた。

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