チリ旅行記



〜緑のない街〜

サンチャゴにたどりつくには、東側のアンデス山脈、北側の砂漠、南側の氷河、西側の海、いずれにしても過酷な自然環境を超えなければならない。と何かに書いてあった。その名の通り、僕はアンデスを越えてサンチャゴにたどりつき、そしてサンチャゴから砂漠を越え、チリ北部の街アントファガスタにたどり着いた。

ロドリゴとマリアーナというカップルと僕は事前に連絡を取っていた。僕はマリアーナの家に泊まった。

マリアーナはチャットでは僕を受け入れてくれていたものの、ほとんど僕に興味がないようだった。彼女は大学生で今はテスト期間、忙しすぎて僕と話している余裕もなさそうだった。部屋を貸してくれて、お母さんはご飯をタダで作ってはくれた。だが、現地人との交流ということをずっとやってきて、ここまでウェルカムじゃない空気は初めてだった。

ほとんど話すこともなく、僕はまるで安宿にいるかのように家族とほとんど交流なくすごした。気を使って話をしていっても、話が合わない。そしてすぐに会話は途切れる。もうどうしようもなかった。

だが、ロドリゴがマリアーナの家に来ているときはよく話した。彼は日本語を勉強して、日本に来る予定があった。そのこともあり、ビールを飲みながら話をして仲良くなることができた。彼のおかげで僕はこの家で空気のようにはならなかった。

そしてこの家は時々温かいシャワーが出なくなった。寒いところで温かいシャワーが出ないと言うのはボリビア以来である。なおかつ食事はいままで行ったどこのラテンアメリカよりも肉とコーラしかなかった。ちょっと嫌になったけれど決して文句は言わなかった。日本人らしく、常に愛想笑いをしていた。

マリアーナの家族は僕を嫌いではないだろうが、僕をほとんど気にも留めなかった。なぜかはわからない。そして僕を早く家から出したさそうだった。ペルーまでのチケットを買いに行こうとなんども言われた。それならば空気を読んで早く出ようと思い、僕は早急にチケットを買った。時間がない僕にとって好都合だった。

逆に考えた。今、全く気を使わずに無料でご飯と家がついている、今はラッキーな旅の休憩なのだと考えた。僕は最低限の会話と愛想笑い以外は黙っていた。ここは嬉しくも寂しくも悲しくもきつくもなかった。つい数日前のサンチャゴでの感動的な生活が嘘のように、僕の感情は一切動かなかった。

でも、不思議とサンチャゴに帰りたいとは思わなかった。寂しいと言う気持ちがないわけではなかったが、後ろは決して振り返りたくなかった。僕は前に進む。旅を続けて前に進む。前しか見えていなかった。

アントファガスタの街はもはや僕が想像しているチリではなかった。アルゼンチンからチリに来たとき、サンチャゴにいた時に、僕はアルゼンチンとチリは似ているようで全く違う国だということを知った。建物はスペイン風で当然似ていてもアルゼンチンは白人の国、チリはメスティーソの国だった。それでも、地理的に近いからか、まだ似ている部分はああった。

だが、北部はもうアルゼンチンの面影もなかった。もはやここは僕の想像していたチリという先進国ではなかった。空気は乾き、街は寂れ、セントロの中はインディヘナしかいなかった。車も建物もぼろぼろだった。この街には緑がなかった。砂埃が溢れ、大きな茶色い山がそびえている。前には海、すぐ後ろには山、不思議な光景だった。

アントファガスタ

ここはチリというよりもむしろボリビアだった。ボリビアの鉱山の街、ポトシだった。だが、アントファガスタはもともとボリビア領ということを考えればそんなに不思議でもなかった。

僕の興味は次に移っていた。次の目的地はクスコ、いよいよ来た。

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